11月3日(日)自分のアタマで考えない人々
(From 毎日jogjob日誌 by東良美季)
2017年10月、「THE FOOLS(ザ・フールズ)」「ブルースビンボーズ」のヴォーカリスト・伊藤耕さんが、服役中の北海道「月形刑務所」で亡くなった。病死と伝えられたが、残された奥さんの伊藤満寿子さんが、死因は刑務所や病院で適切な処置をしてもらえなかったからだとして損害賠償をもとめる訴訟を東京地裁に起こしたと「弁護士ドットコムニュースが伝えている(<服役中の伝説的ミュージシャン死亡、妻が国賠提訴「死なずにすんだのに、許せない」>)。記事によると耕さんは同年10月15日、所内で腹痛を訴え嘔吐を繰り返し病院に搬送されたものの適切な処置を受けられず、また死後に出された北海道大法医学教室による死体検案書と、遺族が北海道大死因究明センターに依頼した解剖結果とは大きく異なっているという。満寿子さんは「もっと対応を早くしてくれれば、(伊藤さんは)死なずに生きて帰ってこれた。普通に外にいれば、病院に運ばれて、簡単な手術で終わるものだった」と主張する。
2017年10月18日「伊藤耕さんのこと」というタイトルの日記を書いた。幸運にもインタビューの機会を得たとき、僕が「刑務所での生活は辛くないですか?」と尋ねると、耕さんは「な〜んもよ」と答えた。そしてこう話してくれたのだ。「あの中はよ、刑務官のオヤジの言う通りやってりゃイイんだもん。逆に言われないことやると懲罰って世界だからな。外でロックやってる方がよっぽど大変だぜ。自分のアタマで色々考えなきゃなんないだろ? だからなー、逆にヤバイよアッチは。人間テメーでモノ考えなくなったらヤバイだろ?」と。刑務所の人たちは病気で苦しむ耕さんに、ちゃんと「自分のアタマで考えて」対処してくれたのだろうか? 作家の中島らもさんが大麻で逮捕されたときも、同じようなことがあったと著書『牢屋でやせるダイエット』に記されている。血圧が異常に上昇し辛いと訴えても少しも応じてくれず、何度も何度も頼み込んでやっと病院に連れて行かれると、その数値は医者が「生きてるのが不思議だ!」と驚くほど高かったという。
自分の眼で見て、自分のアタマで考えれば、眼の前にいる人間がどれだけ苦しみ、危険な状態かはわかりそうなものではないか? ましてや一般の人間ではない。それなりの訓練を受けた、刑務官という職業の人々、そして医者が、である。どこか「自分のアタマ」で考えず、規則や慣例に従い、自分の立場や身内のミスの隠蔽を優先させなかったか? 僕はどうしてもそんなことを思ってしまう。近年よく言われる役人の「忖度」とは、一見自分の立場を有利にするため自分で判断しているように見えるけれど、僕は違うと見ている。「自分のアタマ」で考えず判断を放棄して、世の中の主流となる体制に流されているだけだ。その方が楽だし自分は安泰でいられる。けれど結果どうなるか? 「自分のアタマ」で考え、「自分の判断」と「自分の規範」に従って生きている者はアウトサイダーと見なされ、社会からはじき飛ばされていく。